日本に生息するナマズの種類は2018年に新種「タニガワナマズ」が発見されて4種類となりました。
ナマズ、ビワコオオナマズ、イワトコナマズ、タニガワナマズ
「新種のナマズを発見しました!!:北九州市立自然史・歴史博物館・滋賀県立琵琶湖博物館」
ナマズに関する資料(新種が発見されるまで)
ナマズについて
ナマズの行動を研究するに当たって,まずナマズがどういう生物なのか知る必要がある.そこで,ナマズについて,田崎志郎・金澤光著(2001),『ナマズの養殖技術』より紹介する.
ナマズは世界に広く分布するが,北欧・シベリア・カナダ等の寒帯地区とオーストラリアの南部には生息していない.分類学上でナマズ目は34科,2400種以上もいるといわれ,淡水魚ではその種類数は最多である.日本では3種のナマズが知られている.ナマズが生息する水域は,温暖な地域の河川の中・下流域や湖・池・沼などで,特に水草の茂った泥底を好み,農業用水路などで多く漁獲されていた.しかし,1960年(昭和35年)代以降の急激な都市化の伸展が,河川の中・下流域の護岸化,工場排水あるいは生活排水の流入による水質悪化等を加速させ,ナマズの生息できる場所が消失した.同時に,稲作水田での化学肥料や農薬の使用,用水路の改修(三面張り)などにより生息域は狭鎰化し,それまで,このような水域で普通に見られたナマズが見られなくなり,生息量が激減し,漁獲量は極端に減ってしまった.また,漁獲量の減少原因が生息環境の悪化によるところが大きいとはいえ,有用淡水魚としての保護増殖に消極的であったことも減少原因の一因とされる.しかし,近年は低毒性の農薬の使用や農業用水路の改修などにより徐々にではあるが,生息量は増えているようである.
ナマズの生物学上の分類
標準和名でナマズは,ナマズ目(Siluriformes),ナマズ科(Siluridae),ナマズ属(Silurus)に属し,学名は(Silurusasotus)である.古くは,アジアナマズ属(Parasilurus)と見なされていたが,口髭の数が3対か2対か,胸鰭の棘がないかあるかでナマズ属(Silurus)に分類される.なお,日本のナマズ属にはナマズのほかに,琵琶湖特産種のビワコオオナマズ(Silurusbiwaensis),イワトコナマズ(Silurus
lithophilus)の2種がいる.
ナマズの生物学上の分類
・界―動物界
・門―脊椎動物門
・上綱―顎口(がっこう)上綱
・綱―魚綱(魚類)―条鰭(じょうき)綱(条鰭類)
・上目―骨鰾(こつびょう)上目
・目―ナマズ目:34科,約412属,約2405種.
・科―ナマズ科:ヨーロッパとアジアに生息.9属,約100種.
・属―ナマズ属:海外のナマズではここから以下が変わってくる.
・種―ナマズ:日本では三種類(ナマズ・ビワコオオナマズ・イワトコナマズ)
日本に棲息するナマズの生態
日本に棲息している普通のナマズ類は,ナマズ科(Siluridae)・ナマズ属(Parasilurus)のナマズ・ビワコオオナマズ・イワトコナマズの3種類である.また,日本には,背びれと尻びれの付け根が長いヒレナマズ科のヒレナマズというナマズ類が石垣島に分布しているが,これは台湾島から人為的に移入されたものとみなされているので,ここではナマズ属についてのみ扱う.
ナマズ属(Parasilurus)
1)形態
体にはうろこがなく,側線は完全である.背びれは極めて小さく,6軟条以下であるが,尻びれの基底は長く,65軟条以上に達し,かつ尾びれと連続する.あぶらびれはなく,胸びれには鋭い棘がある.ひげは2~3対で,1対は上あごに,1~2対は下あごに存在する.頭は縦扁する.鰓耙は太くて短く,咽頭歯は小さい.胃は大きくて壁は厚く,腸は4回転する.卵は球形で,直径1.5~2.5mm程度であり,卵黄には粒状構造がある.卵膜は薄く,その外壁をゼリー層が覆っている.
2)生態
かなり大型になる.一般に底生生活をし,大型の動物,とくに魚や甲殻類を食べる.
3) 棲息環境
① 水温
水温25℃前後で行動が活発であり,20~30℃が生活適温と考えられる.水温10℃以下ではほとんど活動せず,冬には泥中や大石の間に隠れて冬を越す.また,真夏に水温が32℃を超える水域でも生息が確認されることもある.
② 溶存酸素
低水温下では,同じくらいの体重のフナに比べ,活動が鈍い分,酸素消費量は少ない.夏場の高水温期には,酸素不足に著しく弱く,すぐに鼻上げをしやすく,酸素の消費量は高い.
③ 水質その他
ナマズが生息する水域は,水産用水基準でみると,コイやフナが生息するβ一中腐水性水域である,その基準値はpH6.5~8.5,BOD5ppm以下,SS50ppm以下,DO5ppm以上とされる.ナマズは比較的汚濁に強く,埼玉県内の河川では,BOD年平均値が7.7ppm,DO最小値が1.2ppmの水域にも生息している.
4)系統
従来は,成体における口ひげの数が2対か3対か,または胸びれの棘に鋸歯が存在しないかあるいは存在するかによって,SilurusとParasilurus 【BLEEKER】とに属を区分していた.しかし,後者のものも幼体はひげを3対あり,また鋸歯の棘も少なくなるとも内側のものの存在する個体が前者で見つかっているので,属を区分するに値するかどうか疑問である.ここではかりに亜属として区別しておく.
北極海岸を除くユーラシア大陸に広く分布し,西はドイツ・スェーデン・ユーゴスラビアに及ぶ.
さらに日本の3種のナマズについて,個別にその特徴などを,宮地傳三郎・川那部浩哉・水野信彦 著(1963),『原色日本淡水魚図鑑』より紹介する.
ナマズ 学名:Silurus(Parasilurus) asotus
1)外部形態
背びれ4~6軟条,尻びれ71~85軟条,胸びれ1棘12~13軟条,腹びれ12軟条,頭長比4.1~4.6,体高比5.1~6.7.
鱗はなく,側線は体側中央を直走する.尾びれは浅く2叉し,上下の長さはほぼ等しい.ひげは上顎と下顎に1対ずつある.眼はやや小さく頭長の1/10程度で背側についているので,腹側からは見えない.背側から側面にかけては,暗褐色あるいは緑がかった黄褐色で,腹側は黄灰色か灰白色とうすい.不規則な雲型斑紋を示すものもある.
2)内部形態
脊椎骨数58~63,第1鰓の鰓耙数11~13.
上顎の歯帯は幅狭く,歯の数も少ない.鋤骨の歯帯は左右に分かれていない.
鰓耙は短く,先端は丸く,粗に生えている.咽頭骨は小さい.
胃は大きく,壁が厚い.8条のひだがある.腸は4回転する.
浮き袋は卵形で,後方が細い.外壁は薄くて弾力性が強い.
3)卵・仔稚魚の形態
卵は球形で,卵膜は薄く,卵黄は淡黄色あるいは淡緑色でこまかい粒状の構造を持ち,直径1.6~2.0mmである.その外側にゼリー状の膜があり,全体の直径は4.0~5.5mmとなる.
受精後8~10日(水温17~24℃)でふ化し,全長3.5~4.3mmで,すでに3対のひげの原基を持っている.肛門も開口しているが,色胞はまったくない.ふ化後2日経つと,全長5.8mmとなり,ふ化後2~3日で尾びれと尻びれの原基があらわれる.
全長8.5~8.8mm(3~5日後)では,卵黄は吸収され,頭部は縦扁し,口は大きく開く.筋節数は15+49=64となる.尾部腹面の膜びれの部分を除いて,褐色胞が散在し,眼球は黒色となっている.
全長4.3cmで,ほぼ成魚となる.体長5cm以下の幼魚では上顎に1対,下顎に2対のひげを持つが,下顎後方の1対は全長6cm~11cmの頃に吸収されて消失する.
4)分布
本州,四国,九州に広く分布し,だいたい日本全国で普通に見られる.北海道にも分布しているが,天然分布かどうかは疑問視されている.大きい川の下流域や,湖・池などに住み,泥底を好む.国外ではアムール水系(黒竜江)・シベリア東部から朝鮮半島西部(洛東江以西)を含む中国大陸のほとんど全域,台湾島・海南島,ベトナム北部にまで広く分布する.
5)産卵
琵琶湖や東京付近での産卵期は5月中旬から7月上旬にかけてで,降雨後の夜間に,本流から小川や池・沼の沿岸などにある水面に浮き上がった藻や水草に卵を産む.粘着力が弱いので,水底や泥上にこぼれ落ちる卵もあるが,特に支障はなく,そのまま発生を続ける.まれに,川の瀬の石礫の間に産みつけることもあるらしく,朝鮮半島ではその報告があるが,日本列島では確認されていない.産卵数は,体長30cmの個体で1~1.5万,60cmのもので10万個程度である.
6)仔稚魚の生活様式
小川や田の溝などの浅い,水草の生えた泥底にすみ,底生動物や半底生の浮遊動物を食べ,ときには水草の破片などを食べることもある.
7)成魚の生活様式
川の中流域下部から下流域,あるいは湖・池・沼などの,比較的深くない泥底部ないし砂泥底部にすみ,とくに水草の茂ったところや岩の間など,隠れ場所や体を寄せることの出来る場所を好む.田の溝に入ることも多い.琵琶湖では泥底の沿岸部や内湖にとくに多く,また定置網のえりをすみ場として利用するものも少なくない.一般に昼間は物陰に潜み,やや暗くなってから活動し,魚類・甲殻類・貝類などを食べる.黒竜江水系の例では,まれにユスリカ成虫を飽食していた個体があるという.冬期は泥上ないし,泥中に潜むが,アムールでは川の下流域へ大挙して集まるという.
8)成長
1年で体長10~15cm,2年で20~30cmとなって成熟するのが標準的な成長.3年で50cmに達するものや,4年以上で60cmに達するものもいる.さらに黒竜江水系では8年で70cm,中国大陸では1.5mに達することもあるという.
最小成熟体長は30cm前後である.
ビワコオオナマズ 学名:Silurus(Parasilurus)biwaensis
1)外部形態
背びれ5~6軟条,尻びれ77~82軟条,胸びれ1棘13~15軟条,腹びれ12~14軟条,頭長比4.3~4.4,体高比4.8~6.0.
鱗はなく,側線は体側中央を直走する.尾びれは浅く2叉し,上葉(背側)の方が下葉(腹側)の長さよりやや長い.ひげは上顎と下顎に1対ずつあるが,共に著しく細く,かつ下顎のひげはかなり短い.眼はやや小さく,頭長の1/10程度で背側についているので,腹側からは見えない.背側から側面にかけては,地色は青色で,金属光沢を帯びた紫色がかっている.腹側は一様に白い.強い光線のもとではオリーブ色に見える.
2)内部形態
脊椎骨数66~69,第1鰓の鰓耙数12~14.
上顎の歯帯は幅広く,両翼は後方にのびている.鋤骨の歯帯もまた幅広く,中央で深く切れこんでいる.鰓耙は太くて短い.胃は大きく,壁が厚い.浮き袋は細長く,その高さは後方で高まり,外壁は厚くて硬い.
3)卵の形態
卵は球形で,直径1.5~1.9mm,卵黄は淡黄色である.表面をゼリー層が包んでいて,それを含めると,直径は2.7~3.8mmになる.
4)分布
琵琶湖の特産種で,ふつう70cm以深の深度のある沖合い部の中層で漁獲される.
5)産卵
産卵期は6月下旬から8月上旬で,大雨で湖面の濁ったときに水面下に入った深さ0.5~1mの平坦な砂礫底で行われる.日没後に沿岸に接近し,2~3日でほとんどすべての個体が1回の産卵を完了する.産卵回数は期間中に1~2回である.多くは北部の塩津湾周辺と竹生島附近であって,1対のおす・めすがもつれあって産卵する.受精卵は波によって撒き散らされ,礫間にころがりこんで発生する.
6)成魚の生活様式
沖合いの中層に分布し,夜間には表層近くにも現れる.主として大型の魚類,とくにビワマスやゲンゴロウブナなどをよく食べるが,冬期にはアユのような小型魚も消化管から多く見つかる.
7)成長
1年で体長20cm,2年で60cm,3年で70cmとなり,5~6年で1mを超える.成熟はおすが2年,めすが3年と推定される.
イワトコナマズ 学名:Silurus(Parasilurus)lithophilus
1)外部形態
背びれ4~5軟条,尻びれ75~88軟条,胸びれ1棘11~12軟条,腹びれ11~12軟条,頭長比4.9~5.6,体高比5.1~5.7.
鱗はなく,側線は体側中央を直走する.尾びれは浅く2叉し,上下の長さはほぼ等しい.ひげは上顎と下顎に1対ずつある.眼はやや大きく,頭長の1/9程度で側面についているので,腹側からも見える.背側の地色は横褐色で,黒色あるいは青緑色の斑紋がある.腹側は白色の地に紫色の斑紋がある.強い光線のもとでは全体が黒色に見える.
2)内部形態
脊椎骨数63~66,第1鰓の鰓耙数9~11.
上顎の歯帯の幅はあまり広くないが,歯の数は多い.鋤骨の歯帯は左右に相離れている.鰓耙は太くて短い.胃は大きく,壁が厚い.
浮き袋は卵形で,後方が細く,外壁は薄くて,弾力性が強い.
3)卵の形態
卵は球形で,直径1.7~2.7mm,卵黄は淡褐色である.外側はゼリー状物質で包まれていて,それを含めると,直径は4.4~5.2mmになる.粘着性は弱い.
4)分布
琵琶湖北部とそのすぐ北にある余呉湖の急傾斜の岩礁部に分布する.
5)産卵
産卵期は5月上旬から6月下旬,あるいは遅い年には7月下旬にわたり,雨の前後の暖かい日に水深4m程度の石礫底ないし砂礫底急斜面の上縁部で行われる.主に塩津湾周辺が多い.
6)成魚の生活様式
琵琶湖北岸などの急傾斜の岩礁部にすみ,主として夜間に,スジエビ・タナゴ類・スゴモロコ・カマツカ・イサザ・アユなどを食べている.
冬にはがけ下の泥部に移るらしい.
7)成長
1年で体長15~20cm,2年で30~40cmとなって成熟するものと推定される.めすの大型のものでは,60cmに達するものもいる.