宏観異常現象
宏観異常現象とは, 人々が視覚や聴覚といった五感によって自然界の異常を観察できる現象のことである. 例えば, 犬が意味もなく悲しく吠えたり,
冬眠中の蛇が地中から出てくるなどする動物の異常, 季節はずれの開花や結実などの植物の異常, 井戸や温泉, 河川の水位や水質の異常, さらに,
発光現象, 異常気象, 鳴動など様々ある. そして, これらの異常現象が地震に先立ち, もしくは 同時に観察されたとして世界各地からの報告が残されている.
「宏観異常現象」という言葉は中国語から由来した経緯(力武, 1998, 2001)からも推論されるように, 中国では宏観異常現象の研究は盛んな様である(中国安徽省地震局,
1979;中国科学院生物物理研究所地震グループ, 1979;尾池, 1978). 特に世界で初めて地震予知に成功したと伝えられた1975年の海城地震(M=7.3)の先行現象には動物異常行動をはじめとする様々な宏観異常現象が考慮されたと報告された(蒋,
1979).
動物異常行動に関する報告
日本における研究は, MILNE(1888), 今村(1927, 1931, 1943), 武者(1931, 1932, 1935, 1957)が過去の様々な事例を収集した.
力武(1978a, 1978b, 1979, 1983, 1986, 1987a, 1987b, 1998, 2001), 力武・鈴木(1979)は大地震に関わるアンケート調査を実施し地震の規模や距離などとの関係を探ると共に,
地震予知への応用に関して包括的議論をおこなった. 最近では弘原海(1995)が1995年兵庫県南部地震の事例を収集した. 日本での異常報告は魚に関するものが多く見受けられる.
魚類と地震との関係に関して, TERADA(1932a, b, 1933)はアジの漁獲量と地震発生回数との相関が高いことを報告した. 末廣(1933,
1949, 1968, 1971, 1975, 1976), SUYEHIRO(1934)は地震に対するハマトビウオやリュウグウノツカイなどの様々な魚類の異常生態に関する事例を報告した.
その後のアジの漁獲量と地震との関係に関してはTOMODA and HIRONAGA(1989)がTERADA(1932a, b, 1933)と同様な指摘をしている.
動物異常行動は, 地震活動に関係する物理・化学的要素が視覚, 聴覚, 嗅覚, 触覚, 味覚, 温度覚,痛覚, 振動覚, 平衡覚, 電気覚などに適刺激を与えることから誘発される可能性が考えられる.
動物異常行動については, 1976年に開催された国際会議(EVERNDEN, J., 1976)において地電流, 磁場, 大気電場, 大気イオン,
大気振動, 地殻微振動などの様々な要因が議論された. 近年では, 地震に関係する可能性がある電磁気現象(上田, 2001;長尾, 2001)が注目されはじめていることから,
動物にも刺激を与えている可能性を考慮する研究が増加している(例えば池谷, 1996). しかし, 地震活動に関係する物理・化学的要素と動物との関係は未だに十分に明らかにされたとはいえない.