地震予報のできる時代へ 電波地震観測者の挑戦
阪神淡路大震災以降、地震予知不可能論が声高に言われるようになったが、私は充分な観測も行わずにあきらめの結論を出していることに失望していた。(中略) 電波観測で前兆を検出できるらしいという研究に対して、地震学界の反応は鈍かった。(中略) 私以外に地震学界メンバーで電波観測を行おうとするものがいないのならば、やってみるしかないだろう、という使命感のような気持ちが湧き上がってきた。(「はじめに」より)
* 「地震予報のできる時代へ」の書評 12-Aug-2013
1995年に串田嘉男氏によって経験的に発見された地震前兆現象について考察し,電気通信大学,東京学芸大学,千葉大学の先駆的な観測を参考にしながら,より科学的に発展にさせるために,2002年度から本学理学研究科地震火山観測研究センターで研究を始めた.
「串田さんの予測手法には、かなり信憑性がある。私の観測でも、散乱波が出現しておよそ15日後、出現が止まってから4〜7日後に地震が発生している」と話す北海道大学大学院理学研究科の森谷武男助教授もその一人だ。森谷助教授は、「週刊朝日」の串田さんの連載記事を読み、その手法に興味を待った。串田さんに手法のレクチャーを受けて、自分でも北海道内に4カ所の観測施設を設置、昨年12月から観測を始めた。その結果、森谷助教授は、串田さんの観測域外で起こった5月26日の宮城県沖地震(M7・0)と7月26日に起きた宮城県北部地震(M6・2)の前兆を検知しているという。
「5月に千葉の幕張で開催された地球惑星科学関連合同学会で昼間、私が『改良串田法』と呼んでいるVHF散乱体探査による地震予報法について、地震の前兆としてこんな感じの変動が現れる、と説明したら、その夜に幕張でも揺れが感じられた。それが宮城県沖地震でした」
動画:それは日高山脈から始まったー地震テクトニクスと地震予知ー(惑星科学研究センター) |
2008年9月11日09時20分に発生した十勝沖地震(M7.1)に先行して、7月16日から札幌観測点(HSS)にNHK浦河(URA)、64MHz三石(MUJ)、八戸(HCI)などからの散乱波が観測され始め9月1日まで継続した。この状況はSEMS研究会に7月29日から逐次報告された。当初青森県東方沖でM7程度が発生すると予想したがエリモ沖に起こった。予想より位置がかなりずれていたし、震源近くのえりも付近の観測点では散乱波が観測されなかったので、観測されたシグナルの検討が必要である。
2(3)(3‐1)地震発生先行過程
展望と課題
直前予知にも関連する「先行過程」に焦点をあてた研究は、「前兆さがし」を繰り返すべきでないとする、旧地震予知計画への反省から、新地震予知研究計画ではそれほど行われなかった。しかし、今回、課題を募集して、実際にはじまった研究の内容をみてみると、90年代以降急速に一般化した地震発生の力学的物理モデルに準拠することで、やみくもな経験主義ではないアプローチによって先行過程を研究する機運が熟していたことがみてとれよう。
「平成23 年東北地方太平洋沖地震」取りまとめのための資料
東北方面の電波を観測している場所は札幌観測所で青森県八戸のFM放送をモニターしていたが、明瞭な変化は見られていない。しかし、えりも観測所で89.9MHz(北海道・中標津FM局)の電波を観測していたところ、2010年6月27日より明瞭な異常が観測され(図11)、1 日当たりの異常観測時間の総和は2010年10月頃をピークとして減少し、異常は2011年2月25日まで続いた。その後しばらく観測されなかったが、3月5日よりまた異常時間が増加していて、6月30日現在でも異常時間が多い状態である。
89.9MHzの電波は岩手県北部の葛巻町や種市町にあるFM 放送局からも発信されており、これによる電波が異常伝播したと考えることもできる。これら場所とえりも地域とを結ぶと東北太平洋地震の震源域の北部を通る。もし、これが地震に先行する電波伝播異常とすれば、その異常観測時間の総和は20万分以上になり、えりも地域で経験的に作れられた観測時間総和とマグニチュードとの関係式によれば、この総和時間はマグニチュード8〜9クラスの地震に関連する。3月11日の地震後再び1日当たりの異常観測時間は増加しており、今後大きな地震が起こる可能性があるかもしれない。