竹内昭洋博士セミナー
日時:2008年5月17日 13:00-17:30
主催:鴨川研究室
around 1:48
圧縮火成岩を流れる正孔電荷キャリア
二酸化ケイ素(SiO2)は、ガラスや光ファイバ、半導体デバイス、レンズ、振動子等の材料として幅広く用いられている。天然界でも火成岩中や火成岩から成る砂礫岩中にSiO2結晶が豊富に含まれており、一般的には石英と呼ばれている。透明度の高いものは水晶とも呼ばれ、宝石としての価値もある。しかし、見た目にはいかに奇麗な水晶でも、その中には様々な不純物や格子欠陥が含まれている。
SiO2結晶において、過酸化架橋(O3Si-OO-SiO3)は最もポピュラーな欠陥の一つである。この欠陥が電離性放射線や高エネルギーレーザ光と作用すると、E’中心(O3Si・)、非架橋酸化ラジカル(O3Si-O・)、過酸化ラジカル(O3Si-OO・)が形成される。これらはいわゆる正孔捕獲中心であり、電子スピン共鳴法や光吸収分光測定による様々な研究がこれまでに報告されている。
過酸化架橋は、その独特の特性からpositive hole pair(PHP)欠陥とも呼ばれることもある。つまり、加圧か加熱により構造が変形すると正孔電荷キャリア(positive hole, p-hole)を発生させ、周辺へと拡散させるのである。しかし、この現象はあまり知られていないし、詳細なメカニズムも不明瞭である。そこで本論分では、これらPHP欠陥の変形によって活性化されるp-holeと、それらp-holeによって引き起こされる諸電磁気現象について述べる。
Source: 圧縮火成岩を流れる正孔電荷キャリア(電気学会論文誌A(基礎・材料・共通部門誌) Vol. 128 (2008) , No. 4 pp.307-310)
参考リンク
竹内昭洋の正孔電荷キャリア | ReaD 研究者(詳細情報) | nkysdb: 竹内 昭洋 | author:a-takeuchi | 鉱山をゆく New
火成岩の不均一圧縮に伴う起電力の発生とそのメカニズム
放射化学的手法による断層活動に伴う電磁気現象のメカニズム解明
石英粒子の摩砕に伴う粒子表面近傍層での電荷キャリアの擾乱
関連リンク
長濱 裕幸 | 地震断層のフラクタル電磁気・放射線特性と地殻応力に関する研究
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破壊プロセスにおける原子分子素過程と破壊前駆現象に関する研究(榎本祐嗣)
3)フラクトエミッション計測(中国工業技術研究所 川口、高坪、山本グループ)
石英ガラスの破壊時における破断表面での発光に関する励起と緩和過程について調べた。発光のスペクトルから、酸素欠乏欠陥、酸素正孔欠陥がSi-O結合の切断によって多数生成、励起され、緩和発光を生じることがわかった(図1)。また、ガラスのOH含有量の影響よって、石英ガラスの脆性がフラクトルミネッセンスに反映されることも判明した。
Freund: Time-resolved study of charge generation and propagation (Tomonori Watanabe, 北海道大学地震火山センター雑誌会)
地震に先行、付随する電気伝導度変化や地電位・EM ・発光のシグナルが、地盤隆起、傾斜変化等に加えて報告されている。しかし、これらの種々の現象を物理的に首尾一貫したモデルで結ぶ概念は存在しない。
microsecond の時間分解能で電気信号を計測するために低・中間速度の衝撃実験を行う。
gabbro と diorite(閃緑岩) の core が比較的低速度 ≒100m/sで衝突を受けた場合、衝突点近くの小体積中において高い荷電粒子移動が引き起こされる。それらは岩石中を広がり+400mV を超える電位・EM ・光放射を引き起こす。電荷雲が広がるとともに、岩石は瞬間的に導電的になる。
granite(花崗岩) のブロックがより速い速度 ≒1.5km/sで衝突を受けた場合、quartz(石英) の過渡的な圧電気的応答を通して P波とS波の伝播が効果として表れる。音波が通過した後、granite block の表面は正に帯電され、低速度の衝突実験中に観測されるのと同様の電荷移動がbulk の内部から広がることを示す。続く 2-3ms の間に表面電位は振動し、地面や接触電極からのプラスの電子の注入を示唆する。
実験は positive holes (正孔) と調和的であり、例えば、O2- 中の欠陥電子は ケイ酸塩鉱物の O 2p-dominated価電子帯を経由して移動する。positive holes は、これまで
考えられていたEM波 というよりも電子雲として伝播する。活性化される前には、それらは電気的に不活性な positive hole pairs [PHP] の形で潜伏し、これは過酸化架橋O3X/゜゜\XO3 (X= Si4+, Al3+ 等) と科学的に等価である。PHPは、ヒドロキシル基 O3X-OH を経て鉱物に取り込まれるが、これはH2O に富む環境中で結晶化
された無水鉱物中であれば必ず存在している。
positive holes が 低エネルギー衝突とそれに付随する音波とによって活性化され得るという事実は、地殻中においてもダイラタンシーの局面における微小破壊によって同様に
活性化され得ることを示唆する。応力負荷された岩石中で電荷担体が活性化され、急速に
移動する電子雲が形成され地表へ達すると、放電や地震発光現象を引き起こし得る高電場が生じ得る。(原文)
Freund: On the electrical conductivity structure of the stable continental crust (渡邉朋典、同上)
high conductivity zone(HCZ) が世界中の安定大陸地殻内の20-30kmの深さに存在するが、その起源は不明である。この深度の温度は400~600℃に制約され、自由流体は鉱物反応によって消費される。HCZの要因としては、残留する流体や塩水、部分溶融、脱水状態の蛇紋石や水酸基を持つ鉱物等が挙げられており、特に有力なのが粒間カーボン膜であるとされているが、これには問題がある。筆者は、HCZの要因として、深さ20~30kmの地殻内において準安定に活性化された positive hole charge carriers を提案している。
構造的・化学的に異なる鉱物である laboratory-grown MgO(olivine単結晶)と下部地殻の斜長岩の電気伝導度と誘電分極を測定したところ、どちらにおいても移動性の高い電荷キャリアが 450±50~650±50℃の範囲で生成されることが示された。この電荷キャリアは positive holes(正孔)、つまり O 2p-dominated 価電子帯中の欠陥電子であり、O2- matrix中のO- と化学的に等価である。これらは、positive hole pairs(PHP) の分離により形成され、PHPは過酸化架橋 O3X-OO-XO3 (X=Si4+,Al3+ ) と化学的に等価である。
PHPは、ヒドロキシル基 O3X-OH が冷却される際に酸化還元作用を受けてO3X-OO-XO3 + H2 となる過程において次々と生成される。ヒドロキシル基は、H2Oに富むmagmaticな環境や変成環境において結晶化した無水鉱物(nominally anhydrous minerals)中には常に含まれている。
positive hole charge carriers は、600℃以下の dry rocks 中の非平衡状態において、還元された陽イオンと共存することが可能であり、400~600℃の温度範囲における電気伝導性を支配すようになると考えられる。(原文)
Stress-Induced Changes in the Electrical Conductivity of Igneous Rocks and the Generation of Ground Currents | pdf (TAO, Vol.15 No.3, 2004)
圧縮火成岩のP型電気伝導とその地殻電気伝導度構造への影響の可能性(竹内昭洋・B.W.S. Lau・F.T. Freund、CA研究会論文集 2008)
次期計画における電磁気学的先行現象の研究(長尾、2008年地震・火山噴火予知研究計画シンポジウム)
不均一な圧縮をうけたハンレイ岩のゼーベック係数 (JpGU, 2011)
火成岩の部分圧縮に伴うP型半導体化現象の研究(東海大)
緊急地震警報を発するための方法および装置 (J-STORE)
第40回「ふじのくに防災学講座」地震先行現象の科学~前兆的な電磁気シグナル発生に関するセンターの取り組み~ | 防災学講座を受講しました(伊豆市議会議員 杉山誠)
Activation of hole charge carriers and generation of electromotive force in gabbro blocks subjected to nonuniform loading (JGR, 2013)
極超低周波音波計測を用いた津波発生検知と津波警報への応用(電子情報通信学会)
地震先行現象の科学~前兆的な電磁気シグナル発生に関するセンターの取組み(静岡県技術士会)
[Freund.html]