ひと 地球物理学者 上 田 誠 也 さん
■ 地震予知研究十年 そろそろ夢はかないますか
東大地震研究所にいた十年前、予知研究のシロウトが、ある論文に引き込まれた。ギリシャ人の物理学者らが「地中の微弱な電流で地震予知ができる」と説き、だれもがインチキと決めつけていた。
「筋が通っていた」。すぐギリシャを訪れ、「日本でもいけるはずだ」と確信した。さまざまな人に勧めても、無視される。「ならば、私が」
地中の電極に流れる電流を測り始めたが、日本では電車などの影響で、いいデータがとれない。「できるわけがない」といわれ放題だった。
「石の上にも十年。少し風向きが変わってきた」
地震も雑電流も少ない北陸地方で、マグニチュード5以上の地震が起こる際、数日前から電流が流れていた。先月講演会を開いたら、関連企業の担当者が大勢集まった。
日本の地震予知研究者たちが消沈気味な中、ひとり元気がいい。東海大教授のかたわら、手本のギリシャへ、年に一、二回出かける。
「震源やマグニチュード、地震の型などを相当の精度で予測するまでになっている」。大地震のうわさが流れ、人口十万人が避難し、パニックになったとき「震源は離れているので大丈夫」と宣言して、その通りになった。そんな成果もあり、三月にはこの方式の予知情報をギリシャ政府が採用し、それに基づく防災委員会を設置すると表明した。
「日本ではやはりダメという結果になるかもしれない。しかし、試す価値はある」
本来、専門は地球の熱や磁気。学士院賞や数々の賞を受け、英、ロシア語訳された著書も。全米科学アカデミーに続き、今春には、ロシア科学アカデミーの会員に選ばれた。
「同じことを続けても質的な変化は少ない。新しいことをやれば、何か出てくる。九が十になる仕事より、ゼロか百というほうが面白い」
「ギリシャでは、ウエダが来ると地震が起こるといわれてます」。64歳。
Source: ひと(朝日新聞, 1994.8.11)
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