John Milne: The Man Who Mapped the Shaking Earth

  • ジョン・ミルンドキュメンタリー 「The Man Who Mapped the Shaking Earth(日本語字幕版)」 の公開に当たって(日本地震工学会)
    柴田 明徳*

     近代日本の地震学及び地震工学の発達史を語る上で、ジョン・ミルン1), 2), 3)はまずその筆頭に挙げられるべき人物でしょう。

     ジョン・ミルン(1850-1913)は、英国リバプールの生まれで、工部大学校(後に工科大学)の鉱山学のお雇い外国人教師として、26歳の時ロンドンからイルクーツクを経てモンゴルを横断し、汽車、船、馬車、駱駝などによる半年の大旅行の末、1876年の春東京にやってきました。

     1880年の横浜地震を経験して大きな衝撃を受けたミルンは、世界で最初の地震学会である「日本地震学会」を設立し、地震の研究を開始します。ジェームス・ユーイング(機械工学・物理学)やトマス・グレイ(電信工学)等と共に地震計の開発に取り組み、幅広い地震科学の研究を精力的に推し進めました。1880年から帰国する1895年までの間に、Transactions of the Seismological Society of Japan(日本地震学会報告)16巻とその続編4巻の計20巻を、ほとんど彼個人の非常な努力と熱意により刊行しています。

     1891年に濃尾地震(M=8.0)が起こり、死者は7千人を超え、住家や土木建築構造物にも大きな被害が出ました。ミルンは、同僚のウィリアム・バートン(衛生工学)、写真師の小川一真とともに震災の調査に赴き、優れた写真集「The Great Earthquake of Japan 1891」を刊行しました。

     ミルンは函館の願乗寺の娘トネと結婚して19年を日本で暮らしたのち、1895年にトネを伴って英国へ戻り、ワイト島ニューポートのシャイドを拠点として世界規模の地震観測を行いました。これは、地球構造研究の原点と言えるでしょう。

     ミルン没後100年の2013年に、親族であるオースラリアの医師ウィリアム・トワイクロス氏の手により、彼の生涯を詳細に綴ったドキュメンタリー・ビデオ「The Man Who Mapped the Shaking Earth」が完成しました。ミルンが後半生を過ごしたニューポートにあるカリスブルック城博物館では、このビデオの常時上映を行っています。筆者と壁谷澤寿海氏(東大地震研究所)はこのビデオ(英語版)の作成の際に日本での撮影や資料収集などに協力する機会がありました。

     この度、この興味深いドキュメンタリー・ビデオの日本語字幕版が作成され、日本地震工学会のホームページ(地震工学資料)で公開されることになりました。なお、このビデオの日本語字幕版は、梅村フィデスさん(東大地震研究所博士課程修了)によって翻訳され、梅村恒氏(名工大)、壁谷澤寿海氏、及び筆者が個人的に監修したものです。

     冒険・旅行好き、並外れた研究熱心、そして人間味に溢れた万能人ジョン・ミルンの人生を辿ることで、私たちは何か大きな将来への可能性を見つけることが出来るかも知れません。地震学・地震工学関係者には広くご高覧いただければ幸いです。

    (*:東北大学名誉教授)

    動画の使用条件: トワイクロス氏は、教育目的かつ非営利目的に限り、本動画の自由な使用を許諾しています。
    Mr. Twycross has generously provided permission for the video to be freely distributed if it is used for educational purposes and is not sold.


  • Related
  • Geology: The maverick founder of modern seismology (Nature, 2013)
  • ジョン・ミルン特集 | ジョン・ミルン没後100年に寄せて(日本地震学会)
  • John Milne - "The Man Who Mapped the Shaking Earth" (CUREE)
  • Milne Memorial | Milne Trail | The official Milne Information Board (Newport Parish Council)
  • The father of seismology Mansfield doctor William Twycross remembers his great-uncle John Milne's pioneering work on quakes. (Sydney Morning Herald, 2011)
  • JOHN MILNE 1850 -1913 CHRONOLOGY (St. Paul's Church)
  • Carisbrooke Castle Museum
  • Milne's former residence

  • Links
  • 日本地震学の基礎をつくった男『ジョン・ミルン』(国立科学博物館)
  • 日本地震学の父 ジョン・ミルン (Japan Journals)
  • ジョン・ミルン(東京大学付属図書館)
  • ミルン『地震学総論』(その1)(地震研究所)
    ミルンによる日本地震学会設立総会の冒頭演説を記録した“SEISMIC SCIENCE IN JAPAN.(日本地震学総論)”を、のぞいてみましょう。 まずミルンは、これからの日本の地震学が地震暦のような単なる「地動ノ記載」に止まることなく、「地震ノ原因」と「其ノ万物ニ及ボス影響」を広く論究する必要があると、研究のあるべき方向を示唆しています。そしてそのために、地質学・物理学・気象学・天文学・数学・工学・医学・動植物学・歴史学との連携という、遠大な構想を述べています。 特に主要研究対象として指摘しているのは、「地震発起ノ原因」と、それを「前知スルノ方法」です。 「地震発起ノ原因」については、地下の熱を想定しており、地震が火山との密接な関係において考えられていた当時の研究水準を反映するもので、現在の目から見ればいささか的外れといわなければならない部分もあります。しかし「前知スルノ方法」に関しては、当時日本のみならずヨーロッパでもいわれていた諸現象(鳥獣の振る舞い、気圧、気温、発光現象、降雨、電磁気現象、火球、太陽黒点、太陽・月の引力)との関係の有無を検討し、それぞれ興味深い論証を加えています。
  • ジェニー・ミルンさんの来所/ Jenny Milne’s visit to ERI(地震研究所)
    2015年の暮れ、ジョン・ミルンの子孫であるジェニー・ミルンさんが地震研究所を訪れました。 地震火山情報センターの横井佐代子特任研究員がジェニー・ミルンさんと知り合いで、今回、図書室の方で所蔵している、ジョン・ミルンの手紙を読みに来所する運びとなった。
    図書室で手紙や当時の新聞、夫妻の写真などを見た後、地震計博物館に案内し、ジョン・ミルンがその発展に大きく貢献した煤書き式地震計なども見学した。(「ミルン水平振子地震計」は、国立科学博物館に所蔵されている)
    長い年月を経て、ジョン・ミルンの手紙が、その子孫によって読まれることになろうとは、本人も思いもよらなかったであろう。

    * ミルンの手紙 で検索(東京大学地震研究所図書室特別資料データベース)
  • Seismic Science in Japan (Milne, 1890)
    To the geologist a knowledge of earthquakes and volcanos is of primary importance, whilst to the physicist, the meteorologist, the astronomer, the mathematician, the engineer, and, I might add, the physician, the naturalist, the historian, and the student of national character, the study of these phenomena and their co-ordination with the phenomena of other sciences, affords a field for research from which much has yet to be gathered in.
  • Earthquakes in connection with electric and magnetic phenomena (Milne, 1890)
    The only paper which has hitherto been brought in the notice of the Seismological Society of Japan treating of the relationship of earthquakes, earth currents, and magnetic phenomena is the contribution by Professor R. Shida on "Earth Currents" (Trans. Seis. Soc., Vol.IX, Pt.I.)

  • [John Milne | UT Repository: 著者 MILNE, JOHN]