地震電磁気観測衛星国際ワークショップ開催報告

 平成20年2月29日、JAXA主催による標記ワークショップが相模原キャンパスで開催され、内外から約60名の参加があった(うち外国人研究者17名)。日本でも地震電磁気現象に関するワークショップは数多く開催されてきたが、衛星観測に焦点を絞ったワークショップはこれが初めてである。

 最初に小山孝一郎・元宇宙科学研究所教授/現在台湾国立中央大学客員教授が、日本の科学衛星ひのとり及び米国の科学衛星DE-2で得られたデータに現れている地震の電離圏への影響に関する発表があり、電離圏研究の新しい展開に対する期待を述べられ、日本の電離圏研究者諸氏の更なる努力を強調した。基調講演の上田誠也東海大学教授よる地震予知研究の歴史と現状に関する発表では、昨年11月、アテネ大学のバロストス教授らにより Physical Review E に投稿された論文で予測された、2月14日にギリシャで発生した地震の予知成功に関する報告もなされた*1。特別講演の早川正士電気通信大学教授からは、旧宇宙開発事業団が実施した地震リモートセンシングフロンティア研究とその後の進展に関する報告がなされた。
 午後のセッションでは最初にJAXAの児玉が、世界の地震電磁気観測衛星の現状と、宇宙理学委員会小型科学衛星ワーキンググループで検討中のELMOS計画について紹介し、内外の研究者の参加を呼びかけた。続いてロシア宇宙庁傘下のAEROKOSMOS副所長セルゲイ・ピュリネッツ博士が、旧ソ連からの研究の歴史と衛星観測結果、将来計画及びロシアの新しい地震予知体制について、ウクライナ科学アカデミー宇宙科学研究所のヴァレリー・コレパノフ博士が、3機編隊によるIONOSAT衛星計画を、フランス地球物理研究所の大西健夫博士が、DEMETER衛星データの解析結果を発表した(今月のGRLには統計的な地震前兆信号の存在を示す統計的な解析結果の論文が掲載された*2)。
 中国地震局地震預測研究所の孟国杰博士からは、第11次五ヵ年計画中に打上げ予定の中国地震電磁気観測衛星に関する発表が*3、台湾国立中央大学の劉正彦教授からは、GPS-TECの膨大な統計的解析結果の発表があった。最後に同大学の柿並義宏博士から、地震に伴う電子温度低下の現象と、その発生機構に対する考察を試みた発表があった。

 総合討論では、未だ電離圏への地震前駆現象の決定的な伝達機構は不明であるものの、各国の地震電磁気観測衛星の信頼できる観測結果の集積が、地震前駆電磁気現象の立証につながることで議論が一致し、地震火山国の宇宙機関として実施すべき将来ミッションの認識を新たにした。最後に、文部科学省科学技術・学術審議会委員(測地学分科会長)の深尾昌一郎東海大学教授より、日本の衛星計画に対する激励の言葉をいただいた。


 本ワークショップとの共催で、翌日開催されたアジア域宇宙地象天気国際ワークショップも極めて盛況であった。このワークショップは第一日目のワークショップが主に電離圏への地震の影響を議論したのに対し、地上観測に集中した報告がなされた。電離圏観測と地上観測の両方の報告をプログラムに組み入れるという今回の試みは、両分野の研究者の将来の共同研究に極めて有意義で、参加者から近い将来同様のワークショップを開催したい旨の意見が聞かれた。

 本ワークショップ開催にあたり(財)宇宙科学振興会をはじめとして、アジア学術会議、九州大学宙空観測センター、千葉大学、東海大学地震予知研究センター及びEMSEV/IUGGから御支援を頂きました。心より御礼申し上げます。

 地震電磁気観測衛星国際ワークショップのアブストラクトは以下のサイトで公開の予定です。
 http://www.sems-tokaiuniv.jp/semsweb/IWSEOS2008.html

(報告者:小山孝一郎・児玉哲哉)

*1 Varotsos, Sarlis and Skordas, Seismic Electric Signals and 1/f "noise" in natural time
経過説明(上田教授による)

2007.11.23
Seismic electric signals and 1/f “noise” in natural timeと言う論文を Physical Review E (PRE)とarXiv.orgに同時投稿。後者はすぐ誰でも見れるから、投稿日の証拠になる。 この段階では、今回のSES(地震前駆信号)は出ていないが、査読中に何か起こったら書き足せるので出版時間が短縮できると言う作戦らしい。

2008.1.14
SES activities appeared at Pirgos on Jan. 14, 2008
SESが現れたことを、上記review中の論文にappendixとして足した。そしてNatural Time解析開始。

2008.2.1
On Feb. 1, Natural Time analysis of seismicity in expected area showed critical stage was imminent. They submitted the news to Phys. Letters E on the same day.
そのことをまたreview中のappendixに足した。これがPRE投稿の意味。そしてギリシャの新聞にもそのことを伝え、2月10日に記事が出た。
Forecast for earthquake 6 Richter (Ethnos)
2008/02/14-20:00 ギリシャ南部でM6.5(時事)
 ギリシャ南部で14日午後、マグニチュード(M)6.5の強い地震が起きた。米地質調査所によると、発生時間は同日午後零時9分(日本時間同午後7時9分)ごろで、震源地は首都アテネの南西230キロ、震源の深さは30キロ。AFP通信によれば、多くの住民が大きな揺れに驚いて屋外へと逃れたが、現時点では人的被害の情報は伝えられていない。
2008.2.14
予測された地震(最近20年間で最大)が発生:EQ M6.9 occurred on Feb. 14.
Greek Seismologist Varotsos predicts earthquake 6.0R ! (YouTube)

バロストス教授からのコメント:It might be worthwhile to be added that actually after 4 days, i.e., on February 14, 2008, a major earthquake occurred which -according to USGS http://neic.usgs.gov/neis/qed/ had a magnitude 6.9 and epicenter at 36.64N 21.83E. The predicted region in our arXiv paper was 36.0-38.6N, 20.0-22.5E, and hence the earthquake -which is the largest earthquake in Greece during the last twenty years- occurred inside the predicted area.
*2 Nemec, Santolik, Parrot and Berthelier, Spacecraft observations of electromagnetic perturbations connected with seismic activity, Geophys. Res. Lett., 35, L05109, doi:10.1029/2007GL032517.

*3 地震電磁探測試験衛星項目2007年下半年工作進展(2008.2.28 中国地震局)

関連報道

  • Kunjungan ke Chiba University, Japan, in Winter 2008 (Djedi S. Widarto)
  • 当所専門家が国際地震電磁観測衛星研討会に参加(2008.3.11 中国地震局地震預測研究所)
  • Prof. S. A. Pulinets, the deputy general director of "AEROKOSMOS" appeared at the seminar (Aerocosmos)
  • Brief report of IWSEOS2008 and IWSLEC2008 (EMSEV) coming soon
    [地震電磁気観測衛星国際ワークショップ]