INCEDEニューズレター
東京大学生産技術研究所国際災害軽減工学研究センター

[Vol.5,No.4,1月〜3月,1997]


「地震予知のVAN法を知っていますか?」

1995年1月17日の神戸地震の直後に、日本政府は「地震防災対策特別措置法」を制定した。この法律により、地震を解明するため総合的に研究活動を推進するため「地震調査研究推進本部」が設けられた。
読者は「地震予知」が上記法律に含まれていないことに注意すべきである。それは、地震災害軽減に携わる人々の考え方及び神戸地震により与えられた衝撃がいかに強いものであったかを反映している。似たような出来事が日本政府内の測地学審議会(文部省)において起きた。この審議会では1965年以来政府に地震予知の計画を建議してきた。政府は、予知関連の活動に過去30年間14億ドル以上の資金を出してきた。しかし、新聞報道によると、審議会のごく最近の会合で、短期の(発生直前の)地震予知は困難な仕事であると結論された。
ある意味で、日本における予知に対する現在の議論は1990年代始めにRobert Geller教授により火をつけられた。悲観論にもかかわらず、VAN法による地震予知の可能性を主張する研究グループがある。このグループは、著名な地球物理学者、上田誠也教授に率いられている。
数年にわたり両教授の間で熱い論争が交わされている。INCEDEニューズレターの本記事においてVANに関する両教授を特集することとした。徒に議論を長引かせることがないようにするため、各著者にVAN法に関する記事を準備することを要請した。彼らはお互いの記事の内容を知ることなしに執筆した。我々は、読者がこれらの記事により、特にVAN法、そして一般的に短期地震予知に関する議論について啓蒙されることを希望する。(須藤 研)

(1)「短期地震予知のVAN法」 上田誠也

(2)「VANは地震を予知できない−ましてや他の誰もできない」 Robert J. Geller

(3)番外「(2)Dr.Gellerの記事に関するコメント」 上田誠也
(注:(3)はINCEDEには掲載はされていません。)


「短期地震予知のVAN法」 上田誠也

ギリシャでは、短期地震予知は10年以上にわたり実用に供されてきた。その手法は、VAN法と呼ばれているが、地電位差変化の監視に基づくものである。VAN法を他の諸分野の有望な方法と併せることにより、地震予知を改良できるばかりでなく、基礎的な地殻過程のより良い理解に至る地球科学の新フロンティアを切り開くことができるように思われる。

VAN法とは何か?
地震予知は3要素、すなわち、差し迫った地震がどこで、いつ、どのくらいの大きさで起こるか、を特定することを目的にしている。一般的に、このことは現在の地震科学の能力では達成困難であると認識されている。それゆえ、地震予知がギリシャで10年以上にわたり実用に供されてきたことは信じがたいことのように聞こえるであろう。
その手法は、3人のギリシャの科学者のイニシャルをとってVAN法と呼ばれる。アテネ大学のP. Varotsos教授、K. Alexonpoulos教授及びK. Nomicos教授である。1981年初期に一つの地震がアテネ地域を襲って重大な損害を及ぼした後まもなく、彼らは地電位変化の監視を開始した。固体物理学者として、地震の震源地域では地震発生の前に何らかの電流が生ずるするかもしれないと予想したからである。
測定は原理的には比較的簡単である。適当な距離で地面に埋められた一対の電極間の地電位差を測定する。地電位は、地磁気の変動、降雨、人工のノイズ、電極の電気化学的な不安定さ等により、常に変化している。したがって、意味のある地震前兆信号が存在するとしても、それを検知するには 、これらのノイズから区別しなければならない。これは困難な仕事であり、これまでの研究者はそれを達成できなかった。物理学の基本法則を厳密に適用して、ほとんど信じられないような努力を通して、VANグループはこの仕事を達成した。すなわち、正しい地点(sensitive stations)さえ選択すれば、地震前兆の電気信号(SES)が実在することを発見したのである。sensitive stationsにおいてさえ、観測された信号のうちわずか0.1%以下が意味のある信号、すなわちSESであった。他は全てノイズであった。SES観測に基づき、VANグループは地震予知の3要素を特定している。その精度は、ステーションが、主として経験に基づき、どれだけ良く「較正(calibrate)」されているかに依る。SESの形式により、地震は数日以内から数週間以内に発生する。震央域の位置は、"selectivity"とよばれるSES特有の性質により予測される。すなわち、あるsensitive stationsは特定の震央域のみからのSESに感度がある。地震の大きさは、震央域とステーションの距離を考慮して、SESの振幅を通して予測される。

VAN法は真に成功しているか:賛成と反対?
彼らは、実際の地震が、上に述べた時間スケール内で、予測された震央からおよそ100km以内で、かつ予測したMの大きさのおよそ0.7ユニット以内で発生した場合に、予知は「成功」であったとカウントしている。これらの規準で、かれらの予知のおよそ60%が成功であり、M≧5.3(ギリシャで使用されているマグニチュードスケールで)のギリシャの地震のおよそ60%が成功裏に予知されている。
彼らの成功が、ギリシャの地震学界を含む科学界で認められていないことは本当に驚くべきことである。ある者は、VANのSESは全て地震に関係しないノイズであると主張し、他の者は、見かけ上の成功は単に偶然であり、VAN法には物理的バックグランドがないと主張する。
上で述べたように、VAN法の第1段階は、多数のノイズからSESを識別することである。この目的を達成するため、VANグループは、各ステーションに多数の電極の対を設置している。南北及び東西で100〜200mオーダーの種々の間隔(short双極子)、並びにいくつかの数kmから数十kmオーダーの双極子(long双極子)である。地磁気によるノイズは、全ステーションに同時に現れるので容易に識別できる。電極の不安定性及び近隣ノイズ源によるノイズは、short双極子では長さに比例した信号強度を示さないので除去される。より遠い源からのノイズも、long双極子の使用により識別できる。経験により、このノイズ除去プロセスを経て生き残った変化はほとんどいつもSES、すなわち続いて地震が伴ったもの、であることが実証されている。Dr. S. Gruszow他は、Ioannina VANステーション近くでの彼らの同時観測に基づき、MB(NEIS):6.1 1995Kozani-Grevena地震に関するSESは、発生源は特定できないが、何らかの産業的ノイズに起因されたものと主張した。しかし、彼らの議論は、VANグループが詳細に説明しているように、成り立つものとは思えない(リストの最後の参考文献を見よ)。
彼らの成功の統計的有意さについては、たいていの検定がVANに有利な結論を下した。東京大学のDr. Robert Gellerのように、2、3の批判では、VANの成功率を非常に小さく計上し、そのような小さな点数は偶然でも得られるものであると論じている。しかし、注意深い読者は、ほとんどすべてのそのような非難は、厳格すぎる条件か、誤った解釈に基づいたものであることが分かるだろう。彼らにとって、受け入れられる地震予知システムは、トランプゲームのように厳密に公式化されなければならないように見える。地震予知は、他の多くの形成期の科学のように、本質的に不完全な状況にある。ここでもっとも大切なことは、前兆としてのVANのSESにさらに探求すべき物理的現実性があるか否かであり、現在のVANシステム(明らかに完全からほど遠い)が、公式化された評価の枠組みを満足しているか否か詮索することではない。本著者にとり、これらの批判は、科学よりも公式化について心配するあまり肝腎の点を見逃しているのではないかと思える。さらに、時々彼らの理由付けには、地震は予測できないという先入観にもとづく証明不能の教条によるほとんど病的な頭越しの主張が見られる。いずれにせよ、悪しき科学は、時間の試練に耐えることはない。何故、潜在的に成長しうる新しい科学の芽が、未だ完全でないという理由で摘まれなければならないのか?
ここにVANの結果についての2、3の我々の評価を提示する。すなわち、大地震(MB≧5.5)についての成功の度合い、及びそれらの警報率のM依存性である。上図には、ギリシャ領での大きなイベントの多くは、「成功裡に」予知されていたことが示されている。次ページの図では、地震の全数と、「成功裡に」予知された地震数及びそれらの比(警報率)が横軸にMB閾値をとって示されている。警報率がMとともに劇的に増加していることは明らかであり、でたらめな予知の可能性は排除される。
SESの物理がいまだ完全に明確にされていないことは自認するところである。しかし、まじめな研究が進行中である。実際、いくつかの可能性のある理論的モデル及びSES発生についての実験研究がある。"selectivity"をもたらす機構は、地殻の未だかって認識されたことのない電気的非均質性に起因するとされている。これらの可能性の証明は、来るべき将来の地球物理学研究の真に挑戦的な仕事となるであろう。
VANへの湧き起こる興味
状況はしだいに、そして今やかなり急速に変わりつつある。1992年に、このテーマの米国の専門家がカルフォルニアのLake Arrowheadに集まり、VANグループを招待して、「地震の低周波電気前兆:事実か虚構か?」という題のNSF支援のワークショップを開いた。彼らとの議論の後、はじめは懐疑的であった専門家達が、「ギリシャで観測された地震電気信号は、地球中で生成され、地震との明白な相関が有望である。」との結論に至った。1993年、3月5日と26日に、二つの強い地震がギリシャのPirgos市を襲った。市の甚大な損害にもかかわらず、VAN予知のおかげで市民は準備したため実際に失命はなかった。そのような劇的な成功は1988年以来何回か繰り返された。ICSUのIDNDR科学委員会(議長:Sir James Lighthill)がVAN法に興味を持ち、ロンドン英国学士院と共催で、「VANに関するCritical Review」という特別会合が1995年に開催された。さらに、アメリカ地球物理学協会の地球物理学研究レターで、特集記事「VANに関する議論」が発刊された(Dr. Robert Geller編集)。VANに関する本格的興味が現れてきたようである。
日本では、我々のグループが、大地震の前の前兆信号かも知れない地電位変化を検出した。例えば、M:6.6能登半島沖地震(1993年2月3日)及びM:7.8北海道南西沖地震(1993年7月12日)である(我々の測定システムは、完全なノイズ除去ができるほど完備してはいなかった)。さらに、日本、中国、ロシア及び米国の幾つかの研究グループは、広い周波数領域で電磁的前兆、及び水位とラドン放出の顕著な変化のような水理-地球化学的前兆の多くの有望な結果を生み出している。前述のSESの興味ある諸特徴とともに、これらの新しい発見はほんとうに魅惑的な問題を提起しており、それらを解決することにより、地球科学に新しい地平を切り開くことになるであろう。
地震予知の重要性は1995年 M:7.2神戸地震の悲劇的災害によりより明白になった。神戸市を襲ったタイプの地震は、震央が巨大都市に近い時には、特にその大きさに比し莫大な荒廃を引き起こし得る。短期予知は従来の手法では困難なことが認識されてきたとはいえ、電磁的、水理-地球化学的及びGPS測地学手法のような新しい手法が、このタイプの内陸地震の前兆の監視に光明をもたらすであろうことも望まれるところである。

さらなる読書のために
P.Varotsos and O. Kulhanek (eds.), "Measurements and Theoretical Models of the Earth's Electric Field Variations related to Earthquakes", Tectonophysics, 224, No.1/3, August 30, 1993.
M.Hayakawa and Y.Fujinawa (eds.), "Electromagnetic Phenomena Related to Earthquake Prediction", 677pp., Terra Sci. Publ. Co., Tokyo, 1994.
Sir James Lighthill (ed.), "A Critical Review of VAN - Earthquake Prediction From Seismic Electrical Signals -", 376pp., World Scientific, Singapole, 1996.
R. Geller (ed.), "Debate on VAN", Geophysical Research Letters, 23, No.11, May, 1996.
P.Varotsos, K. Eftaxias, M. Lazaridou, K. Nomicos, N. Sarlis, N. Bogris, J. Makris, G. Antonopoulos and J. Kopanas, "Recent Earthquake Prediction Results in Greece Based on the Observation of Seismic Electric Signals", Acta Geophysica Polonica, XLIV, 301-327, 1996.


「VANは地震を予知できない−ましてや他の誰もできない」 Robert J. Geller

15年以上にわたり、P. Varotsosと彼の共同研究者(最初の論文の著者のイニシャルをとって普通VANと呼ばれる)は、ギリシャにおいて地震を予知できると主張してきた。以下に述べるように、これらの主張はうそである。より詳しくは、私の84頁にわたるVANに関する論文を見ていただきたい(Geller 1996)。
VANはどのようにして、彼らの根拠のない主張に注意、支持者、評判及び資金をとり続けてきたのだろうか? 簡略な答え:専門の地震学者でない科学者達からまんまと証言を得ることによって、また通常の審査過程をすっとばした資金を募ることによって、マスメディアにおける彼らの主張を粘り強く主張してきたからだ。
VANだけでなく多くの根拠のない予知の主張が、、マスメディアにおいてあまりにも楽観的な評判を得つづけている。Charles F. Richter(地震規模のスケール、マグニチュード、の開発者)が1977年にコメントしている:「ジャーナリストと一般大衆は、満杯のえさ箱に向かう豚のように地震予知の考えに群がる…(予知によって)素人、変わり者及び公然と有名になりたがる詐欺師に幸福な狩り場が提供されている。」 このことは今日においても当てはまる。例えば、Kerr(1991)をみよ。彼は4件の悪名高い予知の恐怖をまとめている。
地震学者は、一般に、地震予知は、将来の地震の時間、位置及び大きさのみでなく、これらのパラメータの「窓」(不確かさの範囲)も規定する表現でなければならないことに同意する。この窓が明確に規定されなければ、たとえその予知が科学的に正当だとしても、当局がどんな行為を採るべきか決定することは不可能である。また、「窓」と他の「ゲームの規則」(成功か失敗かを決める規準)が事前に明確に述べられていなければ、予知が成功か失敗か客観的に決めることは不可能である。誰でも窓のないあいまいな「予知」を出し、何もせず傍観して地震を待ち、しかる後に成功したとあいまいに主張することができる。基本的に、これがVANやっていることのすべてである。
VANは、「地震が来る、地震が来る」という。そして彼らは待つ、さらに待つ。また少し待つ。もしも、1ヶ月ないし2ヶ月以内に、中規模又は大規模の地震が、「予知した震央」(これは時々非常に漠然としている)からおよそ200km以内のどこかで発生したら、VANは「成功した」と主張する。本質的には、VANすることは地震を待つだけで、しかる後に「ほらごらん、それは我々が予知した地震だ」というのである。
ギリシャは、ヨーロッパの中で地震が最も活発な地域である。例えば、1994年だけでも、35-42°Nと19-27°Eの地域でM5.0(ギリシャで使用されているマグニチュードスケールで)の地震が16回発生した。彼ら自身の数え方によると、VANは1987年1月から1995年6月まで94回の「予知」を出した。この地域で1ヶ月か2ヶ月有効な成り行き任せの予知を出す者は誰でも、多くの「成功」を主張することができるであろう。特に「成功」又は「失敗」の規準が前もって明確に定義されていないならば。
時々、VANの「予知」を出したという主張には疑う理由がある。VANは、Varotsosの妻が、1987年2月27日M=5.9の地震の少し前にM=6.5事象を「予知」した電報をK. Alexopoulos(VANの中のA)に送ったと主張する。この主張は不合理なものである。1986年9月から1988年4月までの期間、VANは13の「予知」を、平均M=5.0で、ギリシャ政府に送った。それは、VANがM=5.0の地震の「予知」を政府に送ったという意味ではなく、M=6.5事象の「予知」を政府に送らなかったという意味である。M=6.5はM=5.0に比べおよそ1000倍もエネルギーを放出する。ほかにもまた食い違いがある。VANは、「予知」電報の二つの異なる版を発行した。一つは日付スタンプがあり、もう一つには無い。また、その発信日について相反する陳述をした。
科学者が、測定誤差(バックグランド雑音)が真にある種の信号であると信じる落し罠にはまることは簡単である。VANは、何週間も前に、かつ地震から100km以上離れた場所で前兆の電気的信号を検出したと主張する。しかし、この主張を裏付ける定量的な物理モデルがない。地球物理学的異常は、(証拠無しに)主張された地電気的前兆と結びついて、一般に観測されていない。地震のときに同様の信号が、一般的に観測されていない。VANは、(証拠無しに)主張された地電位前兆は「sensitive spots」でのみ観測できるが、地震にはるかに近い観測所では異常を示していない、と主張する。これには、ギリシャの地殻の極端な非均質性が必要となるが、そのような非均質性の証拠は存在しない。Gruszow他のギリシャでの独立した観測(1996)によれば、VANの(証拠無しに)主張された地電気的前兆のいくつかは、観測所近くの源、おそらく産業活動に起因する、による信号であることが実証された。かくして、VANの電気的観測と地震との間の関連性についての事例は説得力が無い。
VANはしばしば、Hamada(1993)またはAceves他(1996)のような統計的研究を,VANの仕事の正当性を立証するものであると述べている。Geller(1996)では、Hamadaが実際には失敗である多くの事象を「成功」とカウントしていたことが示されており、したがってHamadaの結論は無効である。Aceves(1996)他は、VANの「成功した予知」が統計的に有意であるか否かは、余震をどのように数えたかに依ると言う。しかし、VANはAceves他の結論の都合の良いところのみ引用する。Aceves(1996)他で使用された統計的手法は、検定される仮説が前もって十分規定される時に適切なものである。しかし、VANは多くのパラメータを遡及して調整した。もしもこのことを考慮するならば、VANの結論は、統計的に有意ではない(Kagan & Jackson 1996を見よ)。
VANは、地震学の専門でない科学者から保証を取ろうとしてきた。しかし、専門性は、いつも一つの分野から他へ移し変えられるというものではない(ある分野で偉い人は、必ずしも他の分野でも偉いとは限らないの意)。Michael Jordanは世界的に偉大なバスケットボールの選手であるが、彼は野球で失敗した。上田誠也は、VANを支持する同時掲載の記事の著者である、プレートテクトニクスの良く知られた研究者であるが、彼の地震予知に関する見解は必ずしも権威のあるものではない。
Varotsosは攻撃的な扇動者である。ギリシャでの大きな地震の後、彼はしばしばテレビとか他のマスメディアに出演している。彼はしばしば、自分の「予知」が当局により無視されるので命が不必要に失われていると主張する。彼の日本の支持者たちもまた、多くの都合の良い話を新聞、雑誌に植え付け、またVANをテレビに広く提唱している。神戸地震の後、日本のVANの支持者たちは、もしも日本でVarotsosの手法が使用されてさえいれば、神戸地震は予知でき、何千もの命が救われたと主張する全面的な宣伝キャンペーンを送り出した。彼らはこのキャンペーンを、新聞、雑誌、テレビのみでなく、漫画本にさえ行なった。下の図には、少年サンデーに載った80頁の2部からなる物語「地震は予知できる」のタイトル頁が示されている。T. Nagao、現在東海大学でVAN支持者である、が編集コンサルタントとして名を連ねている。この漫画本は、Varotsosの全面協力で準備された。
vギリシャ政府はVAN研究に資金を提供している。しかし、VANの「予知」をいかなる運用目的にも使用していない。VANの資金は、通常のピアレビューを飛び越した政治的対策により得られており、多くのギリシャの科学者はこの変則を批判している。「成功した予知」のVANの主張は、ギリシャのマスメディアで批判されている(次頁の図)。

地震は予知できるか?
成功なき地震予知研究は、100年以上にわたり行われてきた。その研究に対する批判も同様である。Montalk(1934)による論文では、「地震:それらを予知することの無益さ」というすばらしく説明的なタイトルが付けられた。Macelwane(1946)の批評は今日でも等しく当てはまる:「全ての尊敬に値する地震学者は、我々は、いかなる地震がいつ起こるか信頼に足る予報ができる手段を今日持っていないということに同意する。地震予報の問題は、カルフォルニアその他で40年ばかり熱心に探求されてきた。そして、我々は当初よりも問題解決に近づいたとは思えない。実際、その展望ははるかに希望が少ない。」
最近の会合「地震予知計画の評価」(London、1996年11月7-8日;Main1997及びGeller1997の報告書を見よ)での明確な意見の一致は、震源過程のカオス的で高度に非線型性のため、個々の地震は原理的に予知できないというものであった。地球は、常に不安定性の縁でふらふらしている「自己組織化した臨界」状態にあるように見える。正確にいつ、どこで地震が発生し、開始後どのくらいまで大きくなるかということは、断層の極近傍ばかりでなく巨大な体積にわたる地球の物理状態の無数の微細で測定できない細部に依存している。より詳細な議論はGeller他(1997)を見てもらいたい。
VANによって観測された地震電気信号が地震と何らかの関連があることの証拠はない。地震の「成功した予知」をしたというVANの主張は、再試験に耐えられない。VAN法又は主張に関連するさらなる研究は、正当化されないし、必要が無い。

参考文献
Aceves, R.L. et al., 1996. Geophys. Res. Lett., 23, 1425-1428.
de Montalk, R.W., 1934. Bull. seism. Soc. Am., 24, 100-108.
Geller, R.J., 1996. VAN: A critical evaluation, in A Critical Review of VAN, Lighthill, J., ed., pp. 155-238, World Scientific, Singapore.
Geller, R.J., 1997. Eos, Trans. Am. Geophys. Un., 78, 63-67.
Geller, R.J. et al., 1997. Science, 275, 1616-1617.
Gruszow, S. et al., 1996. Geophys. Res. Lett., 23, 2025-2028.
Hamada, K., 1993. Tectonophysics, 244, 203-210.
Kagan, Y. & Jackson, D.D., 1996. Geophys. Res. Lett., 23, 1433-1436.
Kerr, R.A., 1991. Science, 253, 622-623.
Macelwane, J.B., 1946. Bull. seism. Soc. Am., 36, 1-4.
Main, I.G., 1997. Nature, 385, 19-20.


番外「(2)Dr.Gellerの記事に関するコメント」 上田誠也

以下はDr. Gellerの記事とそれに関する私のコメントである。私は彼のいくつかの所見が虚偽でなければこれらのコメントは出さなかったであろう。ただし、1、14及び15は、Dr. Gellerがあまりよく通じていないVarotsos教授の人格と生き方に関わるものである。また、Dr. GellerはVANグループの最近のいくつかの仕事(例:Varotsos他、1996a,b,c;1997)もご存じないかもしれない。これらの点では彼を咎めるつもりはない。

以下より
Dr.Gellerの記事にコメントを付け加える形で書いてある。青文字が上田誠也のコメントである。

「VANは地震を予知できない−ましてや他の誰もできない」 Robert J. Geller

15年以上にわたり、P. Varotsosと彼の共同研究者(最初の論文の著者のイニシャルをとって普通VANと呼ばれる)は、ギリシャにおいて地震を予知できると主張してきた。以下に述べるように、これらの主張はうそである。より詳しくは、私の84頁にわたるVANに関する論文を見ていただきたい(Geller 1996)。
VANはどのようにして、彼らの根拠のない主張に注意、支持者、評判及び資金をとり続けてきたのだろうか? 簡略な答え:専門の地震学者でない科学者達からまんまと証言を得ることによって、また通常の審査過程をすっとばした資金を募ることによって、マスメディアにおける彼らの主張を粘り強く主張してきたからだ。

VANだけでなく多くの根拠のない予知の主張が、、マスメディアにおいてあまりにも楽観的な評判を得つづけている。Charles F. Richter(地震規模のスケール、マグニチュード、の開発者)が1977年にコメントしている:「ジャーナリストと一般大衆は、満杯のえさ箱に向かう豚のように地震予知の考えに群がる…(予知によって)素人、変わり者及び公然と有名になりたがる詐欺師に幸福な狩り場が提供されている。」 このことは今日においても当てはまる。例えば、Kerr(1991)をみよ。彼は4件の悪名高い予知の恐怖をまとめている。

地震学者は、一般に、地震予知は、将来の地震の時間、位置及び大きさのみでなく、これらのパラメータの「窓」(不確かさの範囲)も規定する表現でなければならないことに同意する。この窓が明確に規定されなければ、たとえその予知が科学的に正当だとしても、当局がどんな行為を採るべきか決定することは不可能である。また、「窓」と他の「ゲームの規則」(成功か失敗かを決める規準)が事前に明確に述べられていなければ、予知が成功か失敗か客観的に決めることは不可能である。誰でも窓のないあいまいな「予知」を出し、何もせず傍観して地震を待ち、しかる後に成功したとあいまいに主張することができる。基本的に、これがVANやっていることのすべてである。
VANは、「地震が来る、地震が来る」という。そして彼らは待つ、さらに待つ。また少し待つ。もしも、1ヶ月ないし2ヶ月以内に、中規模又は大規模の地震が、「予知した震央」(これは時々非常に漠然としている)からおよそ200km以内のどこかで発生したら、VANは「成功した」と主張する。本質的には、VANすることは地震を待つだけで、しかる後に「ほらごらん、それは我々が予知した地震だ」というのである。

ギリシャは、ヨーロッパの中で地震が最も活発な地域である。例えば、1994年だけでも、35-42°Nと19-27°Eの地域でM5.0(ギリシャで使用されているマグニチュードスケールで)の地震が16回発生した。彼ら自身の数え方によると、VANは1987年1月から1995年6月まで94回の「予知」を出した。この地域で1ヶ月か2ヶ月有効な成り行き任せの予知を出す者は誰でも、多くの「成功」を主張することができるであろう。特に「成功」又は「失敗」の規準が前もって明確に定義されていないならば。

時々、VANの「予知」を出したという主張には疑う理由がある。VANは、Varotsosの妻が、1987年2月27日M=5.9の地震の少し前にM=6.5事象を「予知」した電報をK. Alexopoulos(VANの中のA)に送ったと主張する。この主張は不合理なものである。1986年9月から1988年4月までの期間、VANは13の「予知」を、平均M=5.0で、ギリシャ政府に送った。それは、VANがM=5.0の地震の「予知」を政府に送ったという意味ではなく、M=6.5事象の「予知」を政府に送らなかったという意味である。M=6.5はM=5.0に比べおよそ1000倍もエネルギーを放出する。

ほかにもまた食い違いがある。VANは、「予知」電報の二つの異なる版を発行した。一つは日付スタンプがあり、もう一つには無い。また、その発信日について相反する陳述をした。

科学者が、測定誤差(バックグランド雑音)が真にある種の信号であると信じる落し罠にはまることは簡単である。VANは、何週間も前に、かつ地震から100km以上離れた場所で前兆の電気的信号を検出したと主張する。しかし、この主張を裏付ける定量的な物理モデルがない。

地球物理学的異常は、(証拠無しに)主張された地電気的前兆と結びついて、一般に観測されていない。

地震のときに同様の信号が、一般的に観測されていない。

VANは、(証拠無しに)主張された地電位前兆は「sensitive spots」でのみ観測できるが、地震にはるかに近い観測所では異常を示していない、と主張する。これには、ギリシャの地殻の極端な非均質性が必要となるが、そのような非均質性の証拠は存在しない。

Gruszow他のギリシャでの独立した観測(1996)によれば、VANの(証拠無しに)主張された地電気的前兆のいくつかは、観測所近くの源、おそらく産業活動に起因する、による信号であることが実証された。

かくして、VANの電気的観測と地震との間の関連性についての事例は説得力が無い。
VANはしばしば、Hamada(1993)またはAceves他(1996)のような統計的研究を,VANの仕事の正当性を立証するものであると述べている。Geller(1996)では、Hamadaが実際には失敗である多くの事象を「成功」とカウントしていたことが示されており、したがってHamadaの結論は無効である。Aceves(1996)他は、VANの「成功した予知」が統計的に有意であるか否かは、余震をどのように数えたかに依ると言う。しかし、VANはAceves他の結論の都合の良いところのみ引用する。Aceves(1996)他で使用された統計的手法は、検定される仮説が前もって十分規定される時に適切なものである。
しかし、VANは多くのパラメータを遡及して調整した。もしもこのことを考慮するならば、VANの結論は、統計的に有意ではない(Kagan & Jackson 1996を見よ)。

VANは、地震学の専門でない科学者から保証を取ろうとしてきた。しかし、専門性は、いつも一つの分野から他へ移し変えられるというものではない(ある分野で偉い人は、必ずしも他の分野でも偉いとは限らないの意)。

Michael Jordanは世界的に偉大なバスケットボールの選手であるが、彼は野球で失敗した。上田誠也は、VANを支持する同時掲載の記事の著者である、プレートテクトニクスの良く知られた研究者であるが、彼の地震予知に関する見解は必ずしも権威のあるものではない。
Varotsosは攻撃的な扇動者である。ギリシャでの大きな地震の後、彼はしばしばテレビとか他のマスメディアに出演している。

彼はしばしば、自分の「予知」が当局により無視されるので命が不必要に失われていると主張する。

彼の日本の支持者たちもまた、多くの都合の良い話を新聞、雑誌に植え付け、またVANをテレビに広く提唱している。神戸地震の後、日本のVANの支持者たちは、もしも日本でVarotsosの手法が使用されてさえいれば、神戸地震は予知でき、何千もの命が救われたと主張する全面的な宣伝キャンペーンを送り出した。彼らはこのキャンペーンを、新聞、雑誌、テレビのみでなく、漫画本にさえ行なった。下の図には、少年サンデーに載った80頁の2部からなる物語「地震は予知できる」のタイトル頁が示されている。T. Nagao、現在東海大学でVAN支持者である、が編集コンサルタントとして名を連ねている。この漫画本は、Varotsosの全面協力で準備された。

ギリシャ政府はVAN研究に資金を提供している。しかし、VANの「予知」をいかなる運用目的にも使用していない。
VANの資金は、通常のピアレビューを飛び越した政治的対策により得られており、多くのギリシャの科学者はこの変則を批判している。

「成功した予知」のVANの主張は、ギリシャのマスメディアで批判されている(次頁の図)。

地震は予知できるか?
成功なき地震予知研究は、100年以上にわたり行われてきた。その研究に対する批判も同様である。Montalk(1934)による論文では、「地震:それらを予知することの無益さ」というすばらしく説明的なタイトルが付けられた。Macelwane(1946)の批評は今日でも等しく当てはまる:「全ての尊敬に値する地震学者は、我々は、いかなる地震がいつ起こるか信頼に足る予報ができる手段を今日持っていないということに同意する。地震予報の問題は、カルフォルニアその他で40年ばかり熱心に探求されてきた。そして、我々は当初よりも問題解決に近づいたとは思えない。実際、その展望ははるかに希望が少ない。」
最近の会合「地震予知計画の評価」(London, 1996年11月7-8日; Main1997及びGeller1997の報告書を見よ)での明確な意見の一致は、震源過程のカオス的で高度に非線型性のため、個々の地震は原理的に予知できないというものであった。地球は、常に不安定性の縁でふらふらしている「自己組織化した臨界」状態にあるように見える。正確にいつ、どこで地震が発生し、開始後どのくらいまで大きくなるかということは、断層の極近傍ばかりでなく巨大な体積にわたる地球の物理状態の無数の微細で測定できない細部に依存している。より詳細な議論はGeller他(1997)を見てもらいたい。
VANによって観測された地震電気信号が地震と何らかの関連があることの証拠はない。地震の「成功した予知」をしたというVANの主張は、再試験に耐えられない。VAN法又は主張に関連するさらなる研究は、正当化されないし、必要が無い。

参考文献

Aceves, R.L. et al., 1996. Geophys. Res. Lett., 23, 1425-1428.
de Montalk, R.W., 1934. Bull. seism. Soc. Am., 24, 100-108.
Geller, R.J., 1996. VAN: A critical evaluation, in A Critical Review of VAN, Lighthill, J., ed., pp. 155-238, World Scientific, Singapore.
Geller, R.J., 1997. Eos, Trans. Am. Geophys. Un., 78, 63-67.
Geller, R.J. et al., 1997. Science, 275, 1616-1617.
Gruszow, S. et al., 1996. Geophys. Res. Lett., 23, 2025-2028.
Hamada, K., 1993. Tectonophysics, 244, 203-210.
Kagan, Y. & Jackson, D.D., 1996. Geophys. Res. Lett., 23, 1433-1436.
Kerr, R.A., 1991. Science, 253, 622-623.
Macelwane, J.B., 1946. Bull. seism. Soc. Am., 36, 1-4.
Main, I.G., 1997. Nature, 385, 19-20.